土砂降りの針ノ木雪渓【針ノ木爺ヶ岳周回縦走1泊2日-2】

1泊2日の記事ですが、長いので書くのに息継ぎが必要です。3部構成です。約3400字の第2部は長編です。どうぞお付き合いください。


1;「海の日は山へ、虹の扇沢」こちらから



<ルート>
扇沢-針ノ木雪渓-針ノ木峠-針ノ岳-スバリ岳-赤沢岳-鳴沢岳-新越山荘(宿泊)-岩小屋沢岳-種池山荘-爺ヶ岳-種池山荘-柏原新道-扇沢


f0350083_17053151.jpg


ここから、北アルプス三大雪渓のひとつ、針ノ木雪渓に挑む。日本三大雪渓と紹介されてる場合もある。

雪渓下部には丸太橋が架けられていた。雪解け水が成す川の勢いは強く、端は半分水に浸かっていた。雨だから余計に水量が多かったのかもしれない。

周囲の登山客を見ると、誰もアイゼンを着けていなかった。雪渓の斜面も比較的緩やかで、私もアイゼンなしで上り始めた。

雪渓上には赤色のラインが引いてあり、ルートを示していた。雪渓とはいうが、雪というよりガリガリの氷だ。凹凸のあるアイスバーンの上を上っていく。赤インクはだんだんイチゴシロップに見えてきて、巨大なかき氷の上を歩いている気がしてきた。遠めに見れば私は蟻より小さな点のはずだ。蟻気分で標高を上げて行く。

上り始めは緩やかだった斜面も、徐々に角度を上げてきた。雪渓の割れ目が大きな口を開け、恨めしそうにこっちを見ている。頼むからこっちを見ないでくれ。

f0350083_17053532.jpg



足の下では雪渓中の水が集まり、下流を目指していた。足を滑らせたら止まる手段がない。雪渓の口に落っこちたら、海の藻屑ならぬ山のもずくとなりかねない。真冬の滝つぼに落っこちた身からすると、それだけは避けたい。 雪渓の両サイドにも近づきすぎないよう注意する。

f0350083_17053869.jpg


傾斜が少し緩んだ場所で軽アイゼンを装着。氷を掴む足裏の感触が生まれる。安心感が全然違った。

雪渓を下ってきたソロの女性も軽アイゼンを履いていた。すれ違う際、「慎重に下りればツボ足で大丈夫って聞いた」と話していた。新雪じゃないんだから「ツボ足は無理だよね」との結論に至った。


上部に行けば行くほど傾斜がきつくなった。足を滑らせたら転倒し、もれなく恐怖の滑り台を上から下まで一気に滑り落ちるこになる。雪渓の口に飲まれるか、岩にぶつかり骨が砕けるかのどちらかだ。多発性外傷か脳挫傷では死にたくない。

f0350083_17054178.jpg


所々、地図上の県境みたいな亀裂が入っていた。新しそうな亀裂だ。 どうか、私のときを見計らって足元が崩れ落ちませんように。

f0350083_17054581.jpg


雨は土砂降りで、雪渓に雨粒が当たって染み込む音が谷にこだまし、大きく響いているように感じた。頼むから、あまり大きな音を立てないでくれよ。

f0350083_17054836.jpg


私の願いも届かず、雨は一層激しさを増す。自分の足音さえも、雪渓の亀裂を大きくしてしまうのではないか。疑心暗鬼に陥りそうだった。

そんな私の唯一の支えが、コイノボリだった。霧の中を泳ぎ、道筋を示してくれた。おかげで恐怖心が和らいだ。

f0350083_17055202.jpg


谷を囲んでいた岩壁が開けて、少しだけ明るくなった。雪渓上部に着いたのだ。50分程の雪渓歩きもここで終わりとなる。アイゼンを外し、夏道に出る。コイノボリは雪渓案内の役割を終え、尾を振って見送ってくれた。

f0350083_17055564.jpg


夏道、その先は急登だった。雨宿りや休憩をできる場所がなく、歩き通しで疲労が貯まってきていた。晴れていればコルに小屋が見えてくるはずだが、ガスっていてどこまで歩くのか見当がつかない。

f0350083_17055873.jpg


エネルギー切れで、数歩歩いては立ち止まってを繰り返す始末。とりあえず行動食を口に入れて気力で進む。


f0350083_17060125.jpg


やっとのことで針ノ木峠にたどり着く。小屋に入り、土間のテーブルで雨宿りをさせてもらう。レインウエアを着ていても、下着まで濡れてしまって寒い。右隣のオッサンが旨そうに小屋のランチメニューのラーメンを啜っているのを横目に、持ってきたおにぎりとプラムを食べる。温かそうなラーメンを見てたら、なんとなく温まってきた気がしないでもない。・・・私は疲れているようだ。

f0350083_17292610.jpg


ラーメンを平らげたオッサンは、この山域をよく訪れるそうだ。ケータイを取り出し、どこかへ電話をかけ始めた。小屋の予約をしているようだった。


「あいにく、お姉さんと泊まる小屋が一緒ですよ」


私はお先に、と針ノ木小屋を出た。雨も風も強く、視界は10~20m程度。10分もせずに先ほどのオッサンに追い付かれる。道を譲るが、ペースが同じようで一緒に上って行くこととなった。


彼はH氏といった。左腕には三歩がデザインされた遭対協のワッペンを付けていた。今日はオフだけど、コースの下見に来ているから半分仕事みたいなもんだと言っていた。H氏の本職は登山ガイドで、脱サラしてこの道に進んだという。

f0350083_17293022.jpg


自分家の屋根を自分で塗り直したり、手ぬぐいの端を三つ折りにしてミシン掛けするなど、かなり器用で几帳面な性格なようだ。御嶽の噴火の日に、ガイドをしていた話を聞いた時には、雨に濡れて冷えきった手に汗握ったものだ。

f0350083_17293313.jpg


稜線では富山側から風が吹き付け、雨が真横から顔に当たって痛かった。ガスガスで現在地すら分からない。風を避ける場所も、休む場所もなく、ただひたすら白い世界を歩き続けた。

f0350083_17293554.jpg


H氏は「あとこれを上り切れば頂上(ピーク)だ」「この先1時間半くらい歩けば次のピーク」「晴れていれば左に黒部湖、右に雪渓が見える」等、適宜目標や位置関係を伝えてくれ、白い世界の外の情景を想像できた。 おそらく一人で歩いていたら、足元のガレ場に集中し、延々と続く視界不良の稜線に苦しめられていたことだろう。

f0350083_17293879.jpg



いつしか雨は止んでいた。東の風が雲を動かし、一時の明るさを運ぶ。

f0350083_17294181.jpg


ハイマツとシャクナゲが斜面を覆っていた。針ノ木稜線縦走路は、シャクナゲロードだった。

f0350083_17294314.jpg



「しっ。ほら、会いたがってたライチョウがいるよ。お先にどうぞ」

f0350083_17294752.jpg


赤沢岳の手前で、H氏が立ち止まった。見ると、メスのライチョウと雛が3匹歩いていた。ハイマツの茂みへ入っていく彼らを見送った。

f0350083_17295272.jpg


ライチョウに会うと、不思議と足取りが軽くなる。

f0350083_17295434.jpg


その時、ガスが途切れて左側の展望が開けた。エメラルドグリーンの水(H氏曰く、水が腐ってる)を湛える黒部湖が姿を現した。一艘の白い船が、日の光を浴びて輝いているのが見えた。私の折れそうだったココロにも光が差し込んだ気がする。白い世界から、今日初めて見る下の世界に、立ち止まって暫し見入った。

f0350083_17404444.jpg


f0350083_17404989.jpg



赤沢岳と鳴沢岳の間、遥か下の山中を針ノ木隧道が貫く。何か聞こえたり感じたりしないかと、少し期待していたのだが、何も聞こえないし感じなかった。

f0350083_17405211.jpg


f0350083_17405685.jpg


名所、一反もめん岩

「反対側からだと岩が黒くて一反もめんに見えないんだよ」

ガイドのH氏は教えてくれる。

f0350083_17410081.jpg



厚かった雨雲は手持ちの雨粒を全て落し終えたらしく、徐々に雲が薄れていった。鳴沢岳から40-50分下れば本日の目的地、新越山荘だ。山荘に着く頃には大町市街地が見えていた。

f0350083_17410379.jpg


f0350083_17410630.jpg


f0350083_17411093.jpg


新越山荘では、ぽんちゃんが出迎えてくれた。 彼女はリトルカブで旅する女子で、日本一周を一時中断し、山で旅資金を稼いでいる最中。彼女との出会いはブログだが、もはや旅仲間を通り越して友人である。私の家にも2度泊まりにきてくれた。


彼女のブログはこちら⇒ちいさなカブ~リトルカブで日本一周の旅~
私もちょっぴり登場したりします(^_^)/



そんな彼女にお土産を渡す。ザックの大半を占めていた気圧で膨張した下界のお菓子がなくなり、ザックが一回り小さくなった。


“ザ・山小屋“の環境で、ぽんちゃんは働いていた。私が昨夏働いていた小屋よりも、食材や水、風呂の制約がある。頑張ってるな~。海の日にも関わらず宿泊は17名と、とても落ち着いている小屋だったので静かに過ごせた。

f0350083_17411897.jpg



8時間半歩いて、水はたった350mlしか飲んでいなかった。通りで一度もトイレに行きたくならない訳だ。

f0350083_17411465.jpg




夜は従業員に混ぜてもらい、H氏が持ってきた白馬の酒、大雪渓をちゃっかりいただいた。雪渓上ってきて、大雪渓飲んだら、もう寝るしかないじゃないか!というわけでおやすみなさい。

従業員は明るく、雰囲気のいい小屋だった。


私が案内された女性部屋には、私の他にもう1人しかいなくて、ゆっくり休めた。

f0350083_18004458.jpg



1日目歩行 8時間30分

~続く~



にほんブログ村 旅行ブログ 日本一周(バイク)へ


by chidorigo | 2016-07-22 06:43 | 百名山挑戦 | Comments(6)
Commented by nyao0515 at 2016-07-22 18:14
こんにちは。
すごすぎて言葉が出ません。
手に汗握るとはこういうことだ、と
重いながら読みました。
無事で何よりです。
Commented by tarumae-yama at 2016-07-23 15:06
8年前の10月に白馬岳の雪渓を登りましたが、やはり軽アイゼンがあると安心感が全然違いますね。
「地図上の県境みたいな亀裂」には、さいち-さんの豊かな感性を見た思いです。
今回、そんなさいちーさんの文章を感心しながら読ませてもらいました。
Commented by ドンちゃん at 2016-07-24 16:07 x
ご無沙汰してます。ポンさんのブログしばらく覗いてなかったので、わからなかったんですが、いつのまにそんなに仲良くなったんですか?
Commented by chidorigo at 2016-07-29 20:38
>にゃお氏
こんばんは
そんなに手に汗握って読んでいただいたんですか!?ありがとうございます(  ̄▽ ̄)滑り落ちないかドキドキでした
Commented by chidorigo at 2016-07-29 20:43
>たるまえ氏
長文お読みいただきありがとうございます( ´∀`)
軽アイゼンなら使わなくても同じだろうし変わらないと思ってましたが、あった方がいいと今回の山行で考えが変わりました!
Commented by chidorigo at 2016-07-29 20:50
>ドンちゃん
お久しぶりです( ´∀`)
ブログには書いてませんけど、ぽんちゃんは旅の途中長野通過の際にうちへ遊びに来たんですよー!その後別の回にも来て、実は一緒に登山にも行きました。
<< 青空復活大逆転!種池山荘ピザ日... 海の日は山へ、虹の扇沢【針ノ... >>